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COVID-19の影響を受けてからこの一年、人から離れて、現実から離れて、ゲームやらVRやらビットコインやら、仮想の世界の活動に浸っていました。ロングアイランドは2020年3月に比べればずっと普通に近づいていますが、他人の笑顔をマスクなしで直接見れるのは、まだまだ先の話のようです。
2017年から参加させていただいている中之条ビエンナーレの募集で「コロナ禍であってもリモートで参加も可能な作品」という課題を聞いた時、リモート学習が強制され、一人に一台のコンピュータ端末が常識化した今、その端末を利用して体験できる作品を制作しようと思いました。
perceive pre – トオクチカク – Preludeと題したこのアプリは、現実世界の一部に対して、仮想のものや情報を重ね合わせて表示させる技術「拡張現実(Augmented Reality)」を利用しています。今回のアプリは、中之条ビエンナーレPrelude展(2021年4月30日〜5月2日)に合わせてプログラムされています。iOSとAndroid両方のプラットフォームで機能します。
今までここで紹介している私の作品群と比べると「突然、ARアプリ?」という声も聞こえてきそうですが、実は2015年にNYU ITP Summer CampでVuforiaを使った作品を研究発表しています。そのため私にとってはそれ程かけ離れたものという感覚はなく、AR技術を利用してリモートでの制作を具現化できないかと考え始めました。しかし、最初の研究作品から5年も月日が経ってしまうとハードウェアからソフトの面までほとんどの部分が改新されており、自分への挑戦として、アプリをゼロから一人で作り上げることを目標にしました。主に利用したのは、Unity, ARKit, ARCoreです。
2017年、2019年にビエンナーレで発表した作品は、どちらも中之条町に1ヶ月ほど滞在しながら制作しました。人との関わり、現場でしか得られない空気感など、その経験は様々な形で作品に影響を与えています。そういった今までの作品との関係性を考えると、ARの技術を使っても、AR体験だけの作品にはしたくない、というのも今回の課題になりました。そこで、教室に置かれたターゲットをスキャンすることで体験できるインタラクティブ作品へと移行していきました。
AR技術を利用する上で面白いことは、脳を化かすことができる、ということです。目の前の現実にないモノであっても、普段から使っている端末機器を通して見ていくうちに、実際にあるかのように記憶に残っていきます。またモバイル端末を利用したAR体験の特徴は、実際にその対象物の周りを歩くことが出来る点です。3次元的に経験したものを、脳が自分の経験から情報を補完することにより、より実際の経験へと脳裏に焼き付けていきます。今回の作品では、その臨場感が、鑑賞者の経験をより豊かなものにすると感じています。
教室の机の上にある文章や絵は、中之条町の方々からいただいた旧伊参小学校にまつわる思い出話とそれを元に描いていただいたものです。端末のカメラをそれらにかざすことにより、私の制作したデジタル作品が現れます。アプリでの体験、展示会場の雰囲気、そこに来ている人の声、そういったすべての要素を私の作品として鑑賞していただければ嬉しいです。機種によっては対応していない場合もあります。その時感じた疎外感も作品の一部とご理解いただければ幸いです。(4月29日現在、完成にはまだまだ時間がかかりそうなので、9月本展へのバージョンアップは必須です)
今回のプロジェクトはコロナ禍で、100%リモートで制作参加しなくてはなりませんでした。教室、机の採寸から町の人とのコミュニケーションまでビエンナーレ事務所の方々の支え無くしてはあり得ませんでした。この場をお借りしてお礼申し上げます。ありがとうございました。中之条ビエンナーレ本展(9月11日〜10月11日)へ向け、新たに開発を続けていきたいと思います。皆さん、楽しみにしていてください。